地域資源を活用したまちの拠点(ハブ)の見直し

白石 将生(昭和株式会社)

はじめに

大都市圏外に位置する都心通勤圏外の人口10万人未満の小規模都市(以下、「地方都市」と呼称)の人口減少や少子高齢化は、全国平均よりも進行が深刻となることが予想される。そのため、都市経営上の持続可能性を確保することも踏まえた小規模都市の人口減少を緩やかにするための移住・定住促進策は、これまでの暮らしの価値観を基本として模索が続けられている。

一方で、新型コロナウイルス感染症の影響を受けて進展したデジタル技術の活用は、多様な暮らし方を実現するための新たな可能性として期待される。小規模都市における可能性を例に挙げれば、大都市圏中心市の人・物・情報・インフラが集積する業務機能は、地方都市の居住者によるデジタルプラットフォームの活用が現在よりも容易になることが2040年では予想される。また、地方都市における暮らしの価値観についても、地方都市の地域資源からデザインされた物や事を生活に取り入れる暮らしが、生活の価値としてより重視されるようになることが可能性として考えられる。

このように、働き方が柔軟になるとともに、暮らし方の価値観が見直されることを前提として、地方都市における暮らしの価値向上に向けた地方都市の拠点の役割、拠点における都市空間のあり方とそれらを支える制度について本稿で考察する。

地方都市を取り巻く状況

日本における人口減少、少子高齢化は今後ますます進行が予想されるなか、10万人未満の小規模都市の平成17(2005)年~平成27(2015)年の10年間の人口増減率は-11%※1であり、人口10万人以上40万人未満の都市(-3%)及び人口40万人以上70万人未満の都市(0.4%)、三大都市圏(0.8%)と比べると減少傾向が顕著にみられる。大都市圏から通勤圏外にある10万人未満の小規模都市(以下、「地方都市」という)については、三大都市圏等との差異が明らかになっていないものの、人口減少や少子高齢化の進行はますます顕著になることが考えられるとともに、都市経営上等の問題の顕在化が懸念される。都市計画や都市再生の分野では、今後予想される問題を踏まえ、平成26年の都市再生特別措置法改正で創設された立地適正化計画制度を活用し、拠点と拠点を結ぶ交通ネットワークによる都市機能と居住機能の誘導により、コンパクトシティプラスネットワークの都市構造の形成を目指し、持続可能な都市経営を実現していく取組が地方都市を含む全国で推進されている※2。また、地方創生の分野では、人口減少や少子高齢化の進行を緩やかにするため、移住・定住の促進に向けた対策の模索が続けられている。

地方都市における定住促進につながる取組事例

地方都市で懸念される問題を踏まえ、地方都市では定住促進に向けた地方都市ならではの取組が多数みられる。そのなかでも、地方都市の暮らし方に関わる事例をとりあげたい。地域資源を活用した衣食住に関わる生産品やサービスの高付加価値化により、小規模ながらも地域の資源を活用した事業やサービスを提供し、地域の魅力発信も含めて定住促進につなげている事例を挙げる。富山県南砺市(人口約4万8千人<R2年>)の利賀村では、大阪出身のシェフが地域の食材や工芸品等を活かしたレストランを富山市から南砺市へ移転し、飲食サービスの提供だけではなく、事業を通じて食材や工芸品の魅力を全国へ発信している。その結果、レストランで働く従業員14人の雇用を生み出している。

また、地方都市の暮らし方を支えるための拠点づくりに関わる事例をとりあげる。政令指定都市ではあるものの、福井県福井市のえちぜん鉄道・福井鉄道の相互乗り入れ駅である田原町駅では、「公園の中に電車が滑り込んでくるような景色を持つ駅」というコンセプトのもと、鉄道をはさんで交流広場や多目的スペース「田原町ミューズ」を整備している。この田原町駅は、拠点を利用するなかで、鉄道を含めた景観に触れることのできる拠点となっており田原町ミューズのホールでの音楽イベントではホールから鉄道の風景を眺めながら楽しむことができる。

上記の事例は、いずれも地方都市の価値ある多様な資源を活かし、事業や拠点の高付加価値化に成功している。また、前者の事例では、事業のみならず、都市の価値向上にまで効果が波及することが期待されている。

田原町駅

前章で示したように、地方都市ならではの食材や素材、風景を活かした暮らし方は、科学技術等の発展により多様化し、地方都市の価値向上につながる視点として期待される。以下に、多様な暮らし方が実現される社会的トレンドの3つの代表例を示すとともに、トレンドを踏まえて実現される鉄道駅を拠点とした場合の多様な暮らし方の例を示す。

社会的トレンド

①リアルな都市とデジタルな都市の同期化

社会を取り巻く環境として、社会的科学技術の進展や2020年からのコロナ禍によるデジタルトランスフォーメーション技術の浸透により、社会の働き方は多様化をみせている。地方都市に住みながら、オンライン上で大都市に集積する人材・情報にアクセスすることが可能となっているほか、事業を進めるための会議や商談も行うことがこの2年ほどで急速に普及してきている。この状況は今後さらに進展することが予想され、どこにいても働くことが可能になる社会の到来が期待される。

②移動サービス(交通運賃+αの鉄道内でのサービス)のサブスク化の定着

2040年では、「リアルな都市とデジタルな都市の同期化」による多様な働き方の実現に伴い、移動に対する需要が高まりをみせることで、交通のサブスクリプションサービスが現在よりも定着していることが考えられる。このことにより、二拠点居住やワーケーションといった都市居住者の地方都市への来訪が増加するほか、地方都市居住者も柔軟な移動と就業が可能となる。

③地域の伝統産業+観光・交流による個性あるローカルクリエイティブクラスターの形成

2040年では地方での柔軟な働き方が可能になり、地域ならではの食材や素材を活かした産業の価値を高めるための協業や起業が活発になることが予想される。また、地域資源を活用してデザインされた物や事を生活の中に取り入れることが生活の価値としてより重視されるようになる。このことにより、地方都市に住まいながら、地域資源を活用した産業を成長させる取組が増えるとともに、個性あるローカルクリエイティブクラスターの形成が進むことが予想される。

|2040年でみられる暮らし方のシーン

2040年の社会のトレンドを踏まえた多様な暮らし方のシーンを以下に示す。

①暮らし方のシーンのイメージ

まちの風景がみえる鉄道駅や広場等の拠点で生産者や事業者と打合せ。

まちの資源を活用した地域ならではのコト・モノを作り、地域で暮らす生活を送る。

ライフスタイルシーンのイメージ

②登場人物とストーリー

●片桐さん/40歳/女性/各地域の商品のブランディングを手掛けるデザイナー

●佐藤さん/35歳/男性/農産物の加工品を製造する農業従事者

人物像のイメージ

これまで大都市圏に住みながら商品ブランディングを手掛けていた片桐さんは、A市の自然環境や歴史の魅力に惹かれて移住。今日はB市で六次産業化に取り組む佐藤さんとの打合せのためにB市の鉄道駅に併設される交流拠点「MAJIWARI」を訪れた。打合せ相手の佐藤さんはUターンでB市に帰ってきた農業従事者で、採れた農産物を加工した商品づくりに取り組んでいる。

MAJIWARIには多様な業種が集まり協業が可能な設備として、コワーキングスペースや会議室のほか、3Dプリンタをはじめとする多様な工作機械を備えたファブラボスペース、音響機材やスタジオ、小規模保育園や多様な活動が可能な貸しスペースが備わっている。また、駅前の広場では、小規模保育園の園児が遊び、地域活動のイベントも開催され、多様な年齢層、属性の人が交流している。

自然環境を活かした打合せで座った2階のテラススペースからは、B市の田園風景や山並みが自然と眺望できる。MAJIWARI周辺の特徴的な景観を望みながら、片桐さんと佐藤さんは、B市だから押し出せる商品コンセプトについて議論し、WEBミーティングで片桐さんの同僚とも調整を行った。打合せ後、片桐さんは、その商品サンプルを家に持ち帰り、味わい、打合せスペースからの眺めを思い出しながら再考を重ねる。

地方都市ならではの暮らし方を支える都市空間のあり方

2040年での多様な暮らし方の実現には、「働く」と「移動する」といった行動を柔軟に選択できる柔軟性のある空間と機能が必要と考える。本稿では、その中でも「働く」という視点を中心に、行動選択の柔軟性を確保するための拠点の都市空間づくりにおける留意点を考察する。   

2040年では、移動の制約の自由度が高くなり、地方都市における産業においても、協業での打合せやイベント実施での人の集散機能が高まることが予想される。デジタル技術の発展によるWEB上での打合せは、現時点でどこでも実施できる環境になったものの、農産物や陶芸品、家具等の物的な生産物の品質を調整するための打合せやイベントは、生産地での開催が必要になる。そのため、地方都市における拠点づくりにおいては、多様な属性、年齢層が交流するための設備や空間としての規模の確保に留意する必要がある。

また、地方都市ならではの地域資源を活かした多様な利用者の交流を伴う活動を醸成するため、活動スペースから周辺の地域資源が眺望できる空間づくりが必要と考える。地域資源の眺望の体験を通して、地方都市ならではの食材や素材、景観を活かした活動、商品づくりが期待される。

活動スペースからの眺望確保のイメージ

都市空間を支える仕組みのあり方

前章で示した拠点の空間整備、並びに持続可能な拠点形成を支える仕組みのあり方として、整備段階及び管理運営段階で課題が挙げられる。

|施設整備段階

拠点整備には多様な事業メニューがあるなか、地方都市のなかでも、都市計画区域外や非線引き白地地域で立地適正化計画等の都市再生特別措置法に位置付けられる事業メニューの活用がそぐわない地域等では、地域資源を活用する交流拠点等の整備には地方創生拠点整備交付金等の活用が想定される。

このような都市計画や都市再生分野から取り残されながらも、地方都市としてのポテンシャルを活かした暮らし方実現のための拠点整備については、都市計画や都市再生制度と連動した新たな支援制度が望まれる。補助事業の新設等では、例えば拠点整備における活動エリアからの地域資源への眺望確保が担保されていることや、景観計画等で景観資源として位置づけられている等を補助要件として設定することが考えられる。

都市計画制度においては、管理運営段階で後述するエリアマネジメント団体等が拠点施設を新たな都市計画施設として都市計画決定することを提案できる制度を設ける等、新たな暮らし方を実現するための都市計画制度の一部改正も考えられる。

|管理運営段階

今回提案する拠点については、多様な協業や活動が生まれる業務・交流機能の持続性が必要と考えられ、事業の持続性を担保するエリアマネジメント団体が必要と考えられる。大都市圏等と比べると、事業規模が小さいため、実現にはエリアマネジメントのための財源確保が課題として挙げられる。

そのため、拠点の事業に対してのみならず、拠点を中心としたエリアとしての価値向上に対する財源確保の可能性として、SIBや小規模BID等の導入が望まれる。

おわりに

2040年にかけて、暮らす土地に根差した歴史や文化、風景を暮らしの中の様々なアクティビティに活かしていくことが地方都市の暮らしの価値の向上につながることについて考察した。

近年、暮らし方に対して、人々の都市に対する意識が様々な分野で高まっているように感じる。この好機を逃さないように、地方都市で考えられる都市空間のあり方の考察を今後も続けていきたい。

参考文献・資料

※1 資料:都市モニタリングシート(国土交通省、平成30(2018)年7月公表)
※2 令和3(2021)年7月時点で594都市が立地適正化計画に取り組み、398都市が作成・公表している。